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liberteenしゅんすけのブログ

自分の備忘録です。

編集の番外編 BGMに映像を合わせる手法

編集をする人のなかには、特定のBGMを土台にしたミュージッククリップのようなものを作りたい人もいると思います。ミュージッククリップ的なビデオの編集のしかたは通常の編集とはスタイルが異なり、麻雀に喩えて言えば普通の3×4+2の役を作るのが一般的な編集だとすればミュージッククリップを作るのは七対子の役作りをするくらい違います。そういう意味では七対子でアガるためのテクニックは特殊なものであり、どんな役でもアガれるようになる総合的技術の鍛錬とは別ものだということを理解して頂いたうえで、ここではBGMを作品の土台にするミュージッククリップ的な編集の仕方について簡単に解説します。

 

人によっては企画段階から既に主役になる楽曲を決めていて、その曲の流れに合ったカット割りを考えてから撮影に臨むという場合もあるかと思いますが、それだと作られる作品は純然たる(二次創作としての)ミュージックビデオクリップになってしまいます。あくまでコミュニケーションのための動画、体験を共有するための動画というテーマであれば、企画段階ではミュージッククリップ的な方向性をうっすらと意識するにとどめて、撮影段階ではいつもよりもいっそう自分の感覚や情緒に素直になり普段は撮らないようなカットも多めに撮っておく程度にとどめ、あとは普通に撮影から編集の下処理段階まで進めるのが良いように感じます。

編集の下ごしらえまで終わったら、その段階でBGMを選曲します。特定の曲がすでに明確にイメージされていればそれを使えば良いですが、まだこれと言うものがない場合は、下ごしらえの段階で掴んだ作品のイメージを常に頭に浮かべながらイメージに合う楽曲に巡り合うまで徹底的に楽曲を聞きます。Youtubeに動画を掲載する場合は Youtube Audio Library という便利なサイトがありますので、このサイトで片っ端から音楽を聞いていくのも手です。自分のイメージに合いそうな音楽が見つかったら、次はその音楽の構造を分析していきます。音楽をやっていた人ならすぐに分かると思いますが、例えばAメロBメロサビインターバルサビとか、サビAメロBメロサビといったように、楽曲はいくつかのブロックが組み合わさった構造になっており各々のブロックも幾つかの小節が組み合わさった構造になっています。たんに構造を分解するだけでなく、その1つ1つのブロックがどういう意味を持っていて、次のブロックに変わるとどう印象が変わるかといった情緒の起伏についても理解していきます。編集の下ごしらえの段階で全てのカットを頭に叩き込んだ状態で楽曲の構造と流れについて理解を深めていくと、徐々にこのブロックにはこういうシーンを入れて次のブロックにはこういうシーンを入れようとか、サビ頭にはこのカットを使ってエンディングにはこのカットを使おうと言った具合に、ピースがはまるように編集のイメージが湧いてきます。その際に単純に1つ1つの拍ないしは小節に1つのカットを置いていくという穴埋め作業ではなくて、曲全体の起承転結の流れを意識しながら置いていくことが重要です。BGMにしっかりリズムを合わせた動画というのは一つの危険性をはらんでいて、それは、無作為にカットを並べただけの動画であっても、リズムさえ合っていればなんとなく見れたものになってしまうという事実です。良くも悪くもBGMのこういう効果を活用した動画自動作成ソフトやWEBサービスもあるくらいなのでBGMの拍にあわせて無自覚的にカットを並べてしまうことの危険性は理解頂けると思います。

 

楽曲の構造と起伏を理解した上でカットを並べていくイメージが湧いたとき、どうしてもカットの数が足りない、逆に言うと曲が長すぎるということも出てくると思います。編集OKな楽曲素材であれば、最初のサビが終わった時点でエンディングの小節に行くような"手術"を施すこともできますが、一般的な楽曲の場合はサビ明けで潔くフェードアウトするような処置が妥当かもしれません。(ただ最低でもサビまでも行かないとすると、楽曲が持っているテーマというか一連のストーリーにすら到達しないわけですから、その場合は曲選びからやり直したほうが良いです。)このようにして全体の動画の長さのイメージがまとまれば、あとは最適なカットを曲のリズムに合わせて乗せていく作業になります。当然のことですがBGMにカットを合わせていく場合、曲のリズムに乗っていることが基本になります。別の記事でも書きましたが動画の1コマは0.033秒です。拍頭と0.033秒でもずれていたら、つまり1コマ分だけでもずれてしまえば、曲のリズムには合いません。さらに、曲のリズムは必ずしも0.033秒単位で構成されているわけではありませんから、0.03秒未満のずれはどうしても起きてしまう可能性があります。そこはしょうがないと考えつつ、カット頭を拍頭より前に持ってくるか後ろに持ってくるかという1コマ分のデリケートな調整を繰り返していくことになります。実際の曲のリズムや曲調によってまちまちですが、自分では正確に拍頭とカット頭を合わせているつもりでも、動画を再生してみるとなんとなくズレていると感じることもあります。私の経験では、若干絵のほうが遅く感じることが多いようです。これは、人間が映像を目の網膜で知覚してから脳内で処理されるまでの時間と、音を耳の神経細胞で知覚してから脳内で処理されるまでの時間に差があるからではないかと思っているのですが、もう知覚心理学のことはあんまり覚えていないので正確なことは申し上げられません。ただ経験上絵のほうが遅れて感じることが多いため、1コマか2コマ分くらい映像を拍頭より前に持ってくるとリズムが合うように感じることがままあります。ただこういった絵と音のズレ感は単純にカット頭をずらすことだけでは解決しないこともあり、絵の中で何が描写されているかとも密接に関わることがあります。絵の中で人がジャンプしているとしたら、単純にカット頭を拍頭に持ってくるのではなく、足が地面を離れた瞬間ないしは高さが頂点に達した瞬間に拍頭を持ってくるような工夫も、カット毎の個別対応として必要になります。絵そのものが持っているスピード感や情感と特定の小節のスピード感や情感がどうしても合わないばあいは潔くそのカットを捨てるか別の場所に持っていくことも必要になります。

 

BGMを主役にした動画を作る場合、動画自体に録音された音を使うかどうかも問題になります。いちばん楽なのは動画側の音声を一切使わないことですが、気の利いたセリフを喋っているカットでは音声を使いたくなります。そういう場合はセリフを喋っている間だけ一時的にBGMのレベルを下げるであったり、曲のインターバルなどの比較的静かなブロックにカットをあてがうであったり、曲の最後で音がフェードアウトしてきた場所に決めゼリフを言わせるといった工夫が有効です。冒頭でも書いたようにBGMを土台にするとはいえあくまで体験を共有するための動画ですから、ばっさり音声を捨ててしまうよりは、喋っている内容を残しておいたほうがその場の体験を残しておけると思います。

 

基本的には曲のリズム、とくに拍頭にあわせてカットを並べていくと書きましたが、その基本を崩すことで気持ち良い作品が作れることもあります。あえて拍頭を意識しないでカットを繋いでいくのです。そういうブロックが途中で出てくると不思議とそれまでの窮屈さがなくなり、ふわっと解放されたようなイメージが感じられる流れをつくることもできます。きっちりとリズムに合わせてカットを割っていく箇所と、奔放にカットを乗せていく箇所でメリハリを付けると、BGMを土台にしつつ応用を聞かせた魅力的なビデオが出来るのではないかと思います。楽曲の構造と起伏を十分に理解し、緻密に丁寧にカットを並べリズムと情感をシンクロさせていった結果、この楽曲はこの動画のためにあったんではないかと感じられるほどしっくりとなじみ、動画と音楽の良さが一体化してお互いを高め合うような素晴らしい作品が出来ることもあります。是非頑張ってみていただきたいと思います。