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liberteenしゅんすけのブログ

自分の備忘録です。

Winter 2011

ふとんクリーナーとの3年間

おそらく何かの縁や因果があったのでしょう。僕はそれから当時僕が生業としていた販促用の動画表現という枠組みを大きく超えた、PRを軸にしたブランドマーケティング全般の企画に着手しました。完成までには確か2ヶ月弱の期間を要しましたが、僕を助けてくれた5人ほどの企画メンバーの多大なる協力をうけてそれはとてもとても充実した時間でした。最終的には130ページほどの企画書を全部英語で準備してプレゼンに臨んだものの先方が日韓の通訳を連れてきていたため日本語でプレゼンする羽目になったのは今では笑い話です。10年来の友人のKさんやS社のUさんをはじめメンバーのみんなには本当に感謝しています。

その、10月の下旬に完成した戦略の骨子に置いたのはある意味セオリー通りの戦略でした。当初は部屋中が除菌できるハンディ掃除機と定義されていた製品のバリューを「ふとん専用に使うもの」と定義し「ダニのアレルギーに対処するためのもの」と定義したこと、そして初期ターゲットを「小さな子供のアレルギー治療に大変な苦労をしているママ」にピンポイントしたことが戦略の骨子でした。掃除機市場といえば家電の中でも巨大な市場である一方、布団・ベッド専用に使う掃除機はカテゴリ自体が存在していませんでしたから、布団専用・アレルギー専用・ママ専用という徹底的な絞り込みをすることは人によっては自殺行為に映ったかもしれません。メーカー側の心理として見込み販売数量を積み上げるためにはできるだけ幅広いターゲットとできるだけ幅広い用途を設定しがちだからです。しかしこれだけ家電製品が飽和し掃除機も空気清浄機も高性能化が行き渡った日本市場においては一点に徹底的に絞り込むことにしか活路はありませんし、見方を変えれば布団はおおむね全ての家庭に必ず人数分が存在しているわけですから、僕としては自信を持ってカテゴリ創造型・市場創造型のブルーオーシャン獲得戦略を提案しました。幸いなことにこの提案が評価されたようで、まずは初年度1年間のブランドマーケティング全般をマネジメントするパートナーとして選出されました。当初の販売数量目標は、3年間で延べ30万台でした。

 

 

それから2012年2月の製品ローンチまでの3ヶ月間はほぼ休みなく、起きている時間のほぼすべてをRのブランディングに費やしました。ウェブサイトやブローシャーや什器や外箱といったデザイン的要素は勿論のこと、最も力を入れたのは製品そのものの再定義とそれに伴うコピーライティングでした。コピーライティングについては製品のマーケティング的定義(バリューやターゲット)をいちからリセットしたため、さすがにRと言う名前自体は残したものの、「ふとん専用ダニクリーナー」というカテゴリーネームや「医師が開発した光クリーンメカニズム」というタグライン、光クリーンメカニズムという呼称、幾つかのキャッチコピーに加え取扱説明書の文言ひとつひとつまでほぼ全ての言葉を作り直しました。とくに「ふとん専用ダニクリーナー」というカテゴリーネームの決定には製品のバリューを的確に表現するための言葉選びに注意を払いました。(なおローンチから1年ほどして「ふとん専用ダニクリーナー」を「ふとんクリーナー」という呼称に変更しました。ブランドの浸透にあわせてより短く端的な言葉に変えたためですが、最初は長くても分かりやすくしようという考えでこのように命名しました。)

製品そのものの再定義とは、端的に言うと、製品を使う側の人間の所作ふるまいを定義したということです。この製品はどこをどうやって持つのか。どう使うのか。どれくらいの速さで何分間操作すれば良いのか。お手入れ方法はどうするのか。どういう使い方をしてはいけないのか。使わないときはどこに置いておくのか。そして、どこを楽しんでどこに効果と満足感を実感すれば良いのか。新しいカテゴリの製品であるということは、製品の使い方についての共通認識や前提が存在しないということです。そこでたとえばRの使い方として、どれくらいの速さでどう掃除機を動かせば布団1枚をちゃんと掃除できたことになるかというメソッドを何度も試行錯誤したうえで決めました。また実はRのお手入れ方法は、当初はダストボックスにたまったゴミを別の掃除機で吸うという方式でしたが、この方式ではアレルギーに悩む消費者にとっては逆効果で感情を逆なでするものであるし何より使い勝手が悪いという観点から、ダストボックスをそのまま水中に沈めて洗うという水洗い方式に変更しました。このように製品の物理的構造は一切変えなかったもののそれ以外のオペレーション方式についてはかなりの面で見直しをしました。

マーケティングの観点で言えば製品とは物理的な製品そのものではなく、製品と利用者の関わり合いで生まれるベネフィットや行動習慣や心的価値こそが製品と定義されますから、製品をより良いものにしようと考える時には製品の構造や部品や色や形を変更するという狭い視野にとどまるのではなく、製品を使う人間のふるまいと情緒にまで目を広げて、製品+人間=製品だと捉えていくことで柔軟で本質に近づくマーケティング目線での製品改善ないしは製品の価値向上が出来るのではないかと、Rの件を振り返って感じます。

 

製品のコピーが一通りまとまってLさんに報告したときたしかLさんは韓国にいて日本の商社のメンバーたちと会食をしているときでした。取扱説明書の最終校正をしていたのはたしか大晦日でした。韓国は大晦日は平日で、元旦の一日間しか休みを取らないんですよね。そして各種のツールの入稿や製作、イベントの準備などをハンドリングしているうちに、日付はあっという間に2月になっていました。

続く