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liberteenしゅんすけのブログ

自分の備忘録です。

Spring 2012

ふとんクリーナーとの3年間

製品のリブランディングとデザインワーク、ローンチ準備の各作業は多岐にわたり多忙を極め、正月休みもまったくないまま2012年2月11日のローンチ記者発表会に向けてあっという間に時間が過ぎていきました。

販路拡大とくに家電量販店の売場獲得のための営業活動は国内ディストリビューター会社の営業メンバーが担当していましたが、あいにく当初計画していた数百店舗規模の広範囲な店舗獲得には遠く及ばず、ローンチ時は30店舗程度からのスタートとなりました。広範囲な店舗獲得を前提として大規模な記者発表会を計画・実施したのですが、記者発表会とその後のメディア露出による大衆への認知を店舗での実売という形で刈り取ることができませんでした。畑にスプリンクラーで水を撒いたけれども、まだ種を蒔いていませんでした、という状態です。メディアコミュニケーション(所謂マーケ)と営業はHand in handに手を取り合って常に二人三脚で進む必要性があることを痛感した出来事でした。

ブランドのスタート時期は苦しいものです。営業をすると流通企業からメディア露出や話題性は無いのかと言われ、メディアへピッチすると記者から実売実績はないのかどれだけヒットしているんだと言われる。これで営業とマーケが結果が出ないことをお互いのせいにしてしまうとただの責任のなすりつけ合いや貶し(けなし)合いに終始してしまうので、どうにかして鶏卵(にわとりたまご)、にわとりが先かたまごが先かの最初の一歩を創り出す必要が出てきます。製品のローンチにかぎらず新しい企画やビジネスを実現する際に共通して言えることですがこういう際は大なり小なり嘘が先に立つ、嘘からまことを創り出すような動き方が必要になります。Rの場合もそうでした。メディアに対してはこれだけの売場へ展開予定であり年間販売予測はこれくらいだと言い、流通に対してはこれだけの大規模なPRと広告をやるからこれくらいの話題性を生むはずだと言う。そのどちらか或いは両方が失敗に終わればこいつは嘘つきだという誹り(そしり)を甘んじて受けるしかありませんが、その両方がうまくいくと歯車が噛み合い営業とマーケの両輪がくるくると回転しあい前進していくことになります。あいにくRの場合は最初の一歩で営業の歯車が回りませんでしたが、その後は営業メンバーの必死の努力でじわりじわりと家電量販店における展開店舗を拡大していきました。この頃は毎週毎週苛烈な営業ミーティングをおこない、各店舗の販売状況と改善案を1店舗1店舗しらみつぶしに議論し夜になっても出前のドミノピザかマクドナルドを食べながら会議が進み、気付くと夜中になり広尾の笄公園の桜が散り青葉が繁っていくさまを横目に見ながら広尾駅への帰路についたといった記憶しかありません。

店舗の拡大にあたってはとにかく特定の流通企業の特定の店舗にまずは販促の資源を集中させ、模範となる売場を作り、店員さんとのコミュニケーションを密に行い、単店舗単月の売りを作るという目標設定からスタートしました。まずは実績を作るしかありませんから、限られた資源をまずは単店舗単月に徹底的に集中するほかなかったわけです。メディアからの取材を受けるときもその店舗をロケーションに選び、お客様からの問い合わせがあったときも積極的にその店舗を紹介するという徹底的な集中でした。秋葉原にある某カメラ系企業さんの店舗をターゲットとし集中的に販売実績を作り、その実績をもとに他流通企業と商談をし、その模範的売場をモデルに他店舗の売場を整備するという地道な作業を繰り返していったのが基本的な販路拡大の戦略でした。

営業とマーケの歯車のかみ合わせというのはタイミングが難しいもので、営業つまり店舗展開がじわじわ拡大してきた一方でこんどは逆にマーケとくにPRの出目が芳しくない状況になりました。ダニやアレルギーというテーマは季節依存性が高く、からっと快適な季節が続く4・5・6月にダニやアレルギーの話題がメディアに載りづらいことは想像に難くないと思いますが、まさにそのとおりでしばらくはPR鳴かず飛ばずでした。7月に入り布団のダニ増殖による健康への問題を提起する記事が露出しましたが当時はまだまだ大衆への影響力は小さく、しばらくは営業とマーケの歯車が、噛み合ってはいない(お互いを後押しする相乗効果は生まれていない)ものの、それぞれの担当者の熱意と努力によってそれぞれ単独にゆっくり回っていたような状況が続きました。

 

ただ、営業とマーケの歯車ががっちりと噛み合いぐるぐると回転する状況というのは、いわば大衆へ訴求してマスボリュームを獲得するための取り組みです。Rにおいてはそういう準備は進めていたものの、初期ターゲットはあくまで子供の重篤なアレルギー疾病に悩んでいるママという存在でしたから、そのセグメントに対するコミュニケーションはインターネットとママ誌を中心にしっかり行い、売場の多寡とは無関係に一定の販売数と製品に対する高評価を獲得してきました。製品が大衆に受け入れられているかどうかとは無関係にその製品の価値を自分の尺度で判断し購入する層、つまりアーリーアダプター層へ着実にコミュニケーションでき高評価のフィードバックを得られたことで、ブランドの市場投入初期にありがちな「多大なる努力に対して成果が返ってこないストレスフルな状況」をなんとか辛抱しつづけることができたのではないかと思います。どのようなマーケティングでも私は最初の顧客こそが一番の顧客だと思っています。「こんな製品が世の中にあってくれて本当に良かった」と思ってくれるお客様こそが最高のお客様です。ですからブランドマーケティングをする上では、自分の製品を猛烈に必要としてくれる人(初期ターゲット)は誰でありどこで何をしている人なのかを見つけることがまず一番肝心だと思っています。そのクラスタの人数の多寡は関係ありません。初期ターゲットのお客さんに涙を流すほど喜んで受け入れてもらった経験というのはどんなに辛い時であっても心を癒やし熾火のように熱意を後押ししてくれるものです。マーケティングの初期の段階はどんな場合でも大なり小なり辛い時期を乗り越える必要があり、それを乗り越えられないケースもままありますが、たいていは資金の枯渇を理由にされてしまうものの実際のところは熱意の枯渇あるいは自分のブランドを信じつづける信念の枯渇が根底にあると感じています。そういう熱意の枯渇を避けるためにも、繰り返しになりますが、自分のブランドをあるがままに涙を流して受け入れてくれる存在を見つけることは何より大事です。

ただその狭いクラスタのためだけに多額の投資をして製品開発をすると大抵の場合投資を回収しきれないことになるので、その先のマジョリティな人たちにも製品を受け入れてもらうための工夫が追い追い必要になるわけです。本当に心の底から必要としているわけではない人に製品を売るのは是なのか非なのかという命題もあり、それと同時に付和雷同したり流行に乗ることが人間の幸せの一部でもあるのだからという見方もあり、ここに明確な答えはありませんが大抵の場合初期ターゲットの人たちから頂くエールを背中に受けつつブランドはより幅広なターゲットへ足を向けていくことになります。ただ僕が一言だけ付け加えたいのは初期ターゲットの人たちから受けた恩はブランドがどれだけ大きくなっても決して忘れてはいけないということです。もしかしたらRが今現在置かれている苦境はそれを忘れてしまったからかもしれませんが(僕にはRの今の状況は分かりませんが)、この記事の最後のほうであらためて話すことになると思います。

 

営業とマーケががっちりと噛み合うまでには至らずとも初期ターゲットのママ&ベビーさんたちからの一定の支援を受けつつ我慢比べのようにじりじりとその歯車を回しているうちに2012年の夏が過ぎ、秋を迎えた頃に、Rというブランドにとって大きな転換点となるチャンスが訪れました。

続く