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liberteenしゅんすけのブログ

自分の備忘録です。

Autumn 2013

2013年の春頃からマーケティングの業務が拡大してきたのにあわせて僕の親友が勤めていた某広告会社の強力なメンバーがブランディング並びにクリエイティブのパートナーとして加わり、それとともに僕はマーケティング以外にも徐々に人材採用や製品開発にも関与することになりました。2013年は前述したように営業とマーケティングにおいて春を謳歌した一年でしたが、僕にとっては同時に新製品開発の苦しさと豊穣を味わった一年でもありました。

ローンチ当初からそれまで日本で販売されていた製品は、遡ること7年も前に開発された製品であり、そこかしこに改善の余地が生まれていました。しかし同時に開発者にとっては努力の果てに完成しその後7年間も売り続けていた自信の作でもあったわけですから、相応の自負とプライドがあったのでしょう、新製品開発にあたり僕が提案した製品の改善案はことごとく開発者たちからの反発を食らいました。新しい提案を行う度ごとに韓国のインチョンにある工場に赴き、会議室に開発者たちがずらっと居並ぶなかで言葉を尽くして説得をするという繰り返しには中々苦労しましたが当時通訳を担当してくれたJちゃんには心の底から感謝しています。ハンドルの形状を変えようという提案も、僕はそのメリットに確信を持っていましたが、大反発されました。ダストボックスの形状を変えようという提案も肝入りのアイデアでしたが、それも大いに揉めました。カラーリングや造型についても何度も何度も議論を重ねました。製品そのものだけでなく、箱の梱包のしかたや製品に貼る注意書きシールのデザインについても議論を重ね、日本人のためのクオリティを確保しようと努力しました。

製品のクオリティについて日本人の消費者と韓国人の開発者という両者の間に立ち議論をしたことは、日本人のクオリティに対する考え方を客観視するための良いヒントにもなりました。同時にクオリティとスピードのトレードオフについても大変に考えさせられるきっかけでした。端的に言えば韓国人がスピードに対して置く価値は日本人のそれの2倍、日本人がクオリティに対して置く価値は韓国人のそれの2倍、という違いを感じました。(過去の記事でブームという「予想を超えたスピード」への対処のしかたについて書きましたが、このときに仮にRが日本人だけのチームだったとしたら、ブームの風を受け飛翔する高度はもっともっと低いレベルにとどまったんではないかと回想します。目の前を一瞬で通り過ぎるチャンスをばっと鷲掴みにするような瞬発力は韓国人の仕事のスタイルから学べる点だと思います。)

僕が新製品の企画に携わるにあたってのテーマは、毎日ストレスなく使える使いやすさの実現と、最高の製品体験を得られるためのしかけを実現することの二つでした。最高の製品体験とは、その製品を理想的な方法と手順で使って頂き、その製品によってもたらされる価値を最大限に味わっていただくということです。料理で言えば、料理を最高の状態でいちばん美味しく食べていただくということです。そのためのしかけとは、誰にとっても間違えなく最高の製品体験を享受できるようにする工夫のことです。たとえばカップラーメンで言えばお湯を入れてから3分待つという基本原則に始まり、調味油はフタの上であたためてください、天ぷらは食べる直前に入れてください、シーズニングを入れてから一回かきまぜてください、といったインストラクションのことです。とにかく腹が減っている消費者からすれば面倒くさい事この上ないかもしれませんが、インストラクションが雑であったが故にそのカップラーメンが不味いと判断されてしまったとしたら、それは食べた人にとっても作った人にとっても不本意で不幸なことです。あるいは激辛カレーが有名なレストランではカレーが出来上がるまでのあいだに客が自然に目を通すような紙がテーブルに貼ってあり、曰く、このカレーはハバネロの30倍辛く、一年間でごくわずかしか採れない唐辛子を使っています。その唐辛子は瀬戸内海の小さな島でこんな農家の方が作っています。といったうんちくをインプットさせる工夫も、最高の体験に貢献するしかけのひとつでしょう。心を動かされる体験とうんちくの組み合わせは、クチコミを生みます。

Rにおける最高の製品体験とは、自分が毎日寝ていた布団がとても汚かったことに驚きをもって気付くことと、その穢れ(汚れ)がいま間違いなく取り除かれたことを実感することでした。衝撃的な悲劇と葛藤の超越と安堵が同時に訪れる瞬間です。Rとはそういう劇的体験を発生させるための装置でした。そして、そのような劇的な体験を発生させるための仕掛けとは、しかるべき操作方法と時間で製品を使用し、しかる後にダストボックスの中を覗き込み、ダストボックスの中にびっしりとたまったホコリを目の当たりにするという手順を正しく踏むことでした。このような手順をすべての消費者に踏んでいただくためにダストボックスの形状を大幅に変更しましたが、着脱のクリック感の気持ちよさや内壁のアール(フチの曲率)についてまで精査するというこだわりでした。さらにこだわったのが製品の梱包方法、つまり消費者が製品を取り出してからスイッチを入れるまでの手順と所作を設計することでした。たとえば製品とダストボックスは予めセットされているのではなく、別々になった状態で梱包すること。それにより、すべての消費者は必ずダストボックスをセットするという作業をすることになり、ダストボックスについて意識が向くと同時に着脱のしくみを自然に理解することになります。そして本体の上にはかならずそれを手に取らないと製品とご対面できないかたちでファーストガイドを置きました。まずは最高の製品体験をしていただくための最低限のインストラクションをすべての消費者に必ず目にしていただく必要があったため、内容も10秒で読めるグラフィカルなものにしました。ファーストガイドを製品の上に置くといった設計は当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、こういった配慮すらされていない製品は世の中にけっこうあるものです、製品を使うために一番重要な部品が付属品のいちばん下に梱包されていたり。逆にユーザー体験の観点から良いデザインがされた製品は、内容物だけでなく箱や梱包にも気が配られていることは例えば近年iPhoneが普及してアップル製品の優れた梱包のスタイルが様々な製品で模倣されてきたことなどからも感じ取って頂けると思います。(その模倣は表面的なものであることも多々ありますが。)

 

なお新製品の開発にあたっては製品開発以外にプライシングを含めた販売戦略も策定しました。プライシングについては傍(はた)から見ればかなり冒険的に映ったはずです、なにしろ僕は旧製品では2万円だった製品価格を3万円に設定する決断を下したからです。商品のプライシングの意味と目的、そしてRにおいてこのプライシングが生み出した功罪については別の原稿で書きます。

 

このように最高の製品体験を生み出すための工夫を製品そのものをはじめ梱包やあらゆる表現物に宿らせ、さらに日本人が要求するクオリティに到達し日々の使いやすさを担保するために製品に20箇所以上の改善を施した新製品は2013年の秋に発売に至り、関係者の不安をよそに あっという間に旧モデルを凌ぐヒット商品となりました。 

ここまでは良い話ばかりを語ってきましたが次は前回の記事で書いた、圧倒的成長の陰に静かに生まれていた問題の種の話をします。どんなものにも光と影があるように、Rもその例外ではありませんでした。

続く