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liberteenしゅんすけのブログ

自分の備忘録です。

栄光の後ろに置いてきたもの 1

ふとんクリーナーとの3年間

Rにとって2013年は、暖かい春の訪れに始まり、ぽかぽかとした陽気の中でぱあっと咲いた満開の桜が、その年の終わりまでずっと咲き続けたような一年でした。テレビショッピングとメディア露出の両輪がグルグルと回りRの存在がブームとして受け入れられ、年末のヒット商品番付の7位か8位にランクインし、年間販売台数が100万台つまりミリオンセールというキリが良く聞こえも良い数字をちょうど超えたところでその一年間のフィナーレを迎えました。振り返ればまるで素人の脚本家が書いたご都合主義な台本かなにかのように、すべてがRにとってありがたい方向に転がり続けたようなストーリーでした。

しかし、どんな人にでも栄光の美酒に酔いしれている間に気付かないうちに後ろに置いてきてしまうものがあるのでしょう。(限りなく陳腐な表現でありますが、陳腐であるということは、それは大なり小なり人間に備わった本質的な愚かさなのかもしれません。)それは脇も見ずがむしゃらに突っ走ったことの結果でもあり、好むと好まざるとに関わらず多くの人々の注目を集めた結果でもあり、同時にRに関わった僕たちの限界でもあったのだと思います。人間は完璧ではないものです。

ここでは当時栄光の後ろに置いてきた3つのものを振り返ります。

 

 

1つ目は紫外線とダニについての、あるいは効果効能の訴求と沈黙というイシューです。

2014年になると、Rは紫外線でダニを殺すという”嘘をついている”と批判されはじめました。結果的にこの批判に対しては十分な反論や弁明ができなかったのですが、その遠因は、Rをローンチする前の段階にまで遠く遠く遡ります。僕がRというブランドに関わりはじめた最初のころ、製品の各機能についての説明を受けた中で、紫外線に大腸菌黄色ブドウ球菌に対する殺菌効果があることはもちろん、ダニを殺す効果もあると聞かされました。しかし、Rのマーケティングコミュニケーションをするにあたっては、紫外線ランプの効果効能については一切明言しないというスタンスを取ることにし、ほぼ一貫してそれを貫いてきました。それはなぜか?理由は薬事法(現在の薬機法)への抵触を避けコンプライアンスを守るためでした。コンプライアンスを厳密に守ろうとした態度から始まった出来事が、最終的に悲劇を生んだという点では皮肉的な出来事ですがそのいきさつは下記のとおりです。

薬事法への抵触とは、ばい菌の殺菌効果を謳うのであれば薬事法上は消毒薬となり、害虫などを殺す効果を謳うのであれば同じく殺虫剤となり、いずれもそれら効果効能を謳うためには医薬品あるいは医療機器等として省庁からの認可を受ける必要があるため非認可の商品が直接的にそれら効果効能を謳うことはできないという問題です。家電やハウスケミカルや雑貨などの大手消費財メーカー各社がこの薬事法上の規制のグレーゾーン上でどうにかして製品の効果をアピールしようとした結果として、殺菌ではなく除菌という表現やアレルゲンではなくアレル物質という表現が生み出されたり、古くはマイナスイオン騒動や最近の水素水騒動に代表される出来事が繰り返されているように、この問題はまるでグレーゾーンというリングの中で永遠にプロレスのバトルロワイヤルが行われているようなものだと感じます。

僕は過去に多くの医薬品や化粧品の宣伝広告に携わってきた経験から薬事法上の基本ルールについては熟知していましたが紫外線の効果効能に関する業界標準的なルールについては知らなかったため、薬事当局である東京都に何度か足を運び担当者からの指導を受けました。(あたりまえですが効果効能を信用していたからこそこのように面倒くさいことを我慢強く行いました。)そこで担当者から得られた結論としては、紫外線については過去前例が全く無い、そのためベンチマークするものがまったくない、ゆえに紫外線の効果について明言することは避けるべきであろう、しかし掃除機としてホコリやゴミと同様にダニを取り除くことができるのであればあくまで掃除機のゴミ除去機能の一環としてダニの”除去”を謳うのは問題なかろうというものでした。そこでこの方針を受け、紫外線ランプの効果効能を直接的に謳うことはせず、あくまでRに搭載された各機能が総合的に連動することでダニとその死骸・糞を除去し寝具を清潔に保つという点を訴求の中心としたコミュニケーションを行ってきました。

しかしRが徐々に有名になり色々な人の目に触れるようになると、想像と期待から生まれた誤解が生じるようになりました。紫外線はダニを殺すという認識が独り歩きしてしまったということです。言うなればその誤解はRにとっては幸せな誤解ともいえるものでした、語らずとも本当のことを分かってくれたという出来事であれば、どれだけよかっただろうと思います。しかし問題の本質はそういった幸せな誤解を黙認し放置してきたことではなく、問題の本質は、紫外線がダニに及ぼす影響についての明確なエビデンスデータをR社が出すことができなかったという点にあります。このことをあとから知ったとき僕は驚き、同時に、(敢えてぼかしますが)ある思いと感情が、僕の中に生まれ、このストーリーの最後まで残りつづけることになりました。

 

冒頭で僕は紫外線の効果についての説明を受けたと書きましたが、それをそのときデータで検証することをしなかったのが僕の大きな反省でした。何かを信じることで、真実(しんじつ)を見つめる目をつぶってしまうのは時に罪になることを学びました。しかし、彼も、紫外線のダニへの影響を本当は本当に信じていたのではないかと、今から過去を振り返って、今ではそうかもしれないと思っています。彼は医者でした、クリニカルな現場の人間でした、クリニカルな現場においては薬や処置の作用機序がどうであるかということは二の次であり(それは製薬会社や、病理学の基礎研究者が担うものですから)、一番に大事なのは原因と結果が正しく結びつくこと、つまり患者の病気が治ることです。Rを母国で初めて売ったとき、Rを使ったことで子供のくしゃみや肌のかゆみが無くなったんです、本当にありがとうございますという声が届いた時彼は本当に心の底から嬉しい気持ちになれたそうです、僕はこの逸話を本当のことだと思っています。医者にとって一番に大事なのは病気が治るしくみではなくて病気が治って患者に笑顔が戻ることであるように、Rにおいても結果が出たという揺るがない事実があることを土台に、紫外線の効果についてもまずは信じてしまっていたのではないかと思います。そして、泥棒を捕らえてから縄を綯(な)えば良いだけのことだと、順序だけの問題だと捉えていたのではないかと、僕は、推測します。この推測はただそれをそう信じたいだけの気持ちなのかもしれません。ただ、過去は永遠に、永遠の過去のなかにあるだけです。

薬事法を徹底的に遵守するという姿勢に立ったことで結果的に直接的な嘘をつくという罪をなすことを防ぐ結果になったのかもしれません。これも皮肉な話です。薬事法を守るという姿勢が結果的に「沈黙という嘘」という罪をなす結果になったことも、二重の意味で猛烈に皮肉な話です。

この一連のことは、ブームによって注目を浴びることになり、紫外線にダニを殺す力はないという科学的観点からの反論と、ダニを殺すという独り歩きした認識を結果的に黙認していたという事実への批判という二つの点から、競合の強烈な反撃を許す切っ掛けになりました。

続く