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体のサイン

人間は誰でも年をとるものですが、僕は年をとるにつれ風邪をひきにくくなりました。健康に気を使うようになったのではなく、風邪のひきはじめの兆候を感じ取りやすくなったからです。
若い頃は、風邪薬の注意書きに書いてあった「風邪のひきはじめに飲んでください」という文章の意味が分からず、というより風邪のひきはじめとはどういう状態なのか分からず、薬屋で薬剤師にも聞いてみましたが「人それぞれによって違いますけどなんとなく感じるものですよ」といった曖昧な返答をされ頭をひねったものでした。
しかし今ではよく分かるようになりました。僕は風邪のひきはじめにはたいてい目がチカチカします。あれ、なんかまぶしく感じていつもより視力が鈍いな、と思ってしばらくすると目の奥が痛くなり、寒気がして、熱が出ます。なので風邪の兆候を感じたらすぐに葛根湯などの薬を飲んで、予定をキャンセルして、できるだけ暖かくしてじっとしていて、なるべく早めに帰って寝ると翌日にはスッキリしているという次第です。(ちなみに寝るときには僕はバスタオルを肩から胸にかけて巻いて、その上からTシャツを2〜3枚着て、その上にスウェットを着てから寝ます。寝てしばらくすると猛烈に汗をかくので、バスタオルを取って、さらに汗をかくのでTシャツを1枚脱いで、というふうに繰り返していくとスッキリ寝られて風邪が治ります。)若い人が風邪をひくと大抵2〜3日は引きずって長引いているのを見て、若さというのは体力と元気があることがときに災いして、体が発するサインを感じ取りづらくさせることもあるのだなと感じます。

 

僕が若いころ、といっても30歳は過ぎていましたが、その頃よく付き合っていたクライアントに打ち合わせのために訪問したあるとき、その担当者から「新舘くん、顔色悪いけど、大丈夫?」と言われました。僕はとくに体調が悪いわけでもなかったので、怪訝に思いながらも、「あ、いえ、全然だいじょうぶですよ。」と返事をしました。そのときはそのまま忘れてしまいましたが、後日、またいつものようにそのクライアントを訪れたとき、同じように「新舘くん疲れてるの?顔色冴えないけど」と言われました。もちろん僕はいつもどおり元気な、はずでした。

後になって、何かの拍子に、ハタと気づいたんですね。あの人と会うたびに顔色悪いね、疲れてるの、大丈夫かい、と言われ続けていたのは、「僕があの人と会うのがじつは苦手だったからだったんだ」ということに。僕はその人のことが苦手だったんです、じつは。でもおそらく大事なお客さんだったから、それを意識しないように、無意識のうちにそう思わないようにしていたんですね、きっと。でも体はその苦手を自覚していた。それが体のサインとして出てきていたんだと思います。(そのサインを、当の張本人に心配されるというのは皮肉めいていますけどね。)

仕事で人と会う、友達と会う、そういうときにじつは体では感じ取っているストレスが「体のサイン」として出ていることは、よくあります。僕も昔はストレスまみれの暮らしをしていましたが、こういう体のサインに気付き、それを大事にするようになって、生きることがすこし楽になりました。どこかの誰かの役に立つかもしれないので、僕の実体験を振り返って3つのサインを紹介します。

1 時間ぎりぎりになる
とある取引先とのアポイントが、いつもなぜか時間ギリギリになってしまうということがありました。ときには遅刻をして、ただでさえいつも頭をさげているような相手なのに、さらに恐縮してお詫びの電話をかける。思い返せばこの取引先のところに行くときは、なぜかいつも急いでいるな。これも、体が発する苦手のサインです。人と会うときに、相手のことを嫌いなわけではないのに(むしろ好きだと思っていたりするのに)なぜか時間ぎりぎりになる、あるいはちょくちょく遅刻する、こういう相手は要注意です。原因を分解していけば、寝坊したのかもしれません。化粧の乗りが悪かったのかもしれません。体がなんとなく重かったのかもしれません。途中でトイレに行きたくなって電車を1本遅らせざるを得なかったのかもしれません。でもどれも、無意識があなたの心に何かしらのブレーキをかけてしまったのかもしれないのです。

2 いつもより酔っ払う
楽しい相手との宴席でも、なぜかいつもより酔っ払い、あとで「なんであんなに沢山飲んじゃったんだろう、というより、沢山飲んだっけ?」と思うことがよくありました。じつは酒を飲んでいる時、心の底にうっすらと無意識の緊張が横たわっているため、いつもより酔わないんですよね。それゆえに気づかないままいつもより沢山の酒を呑み、宴席が終わり緊張が解けた後で酔いが回る。楽しい相手なはずなのに、いつもどおりのペースだったはずなのに、なぜか酔っ払ったなと感じる、あるいは次の日に酒が残っているなと感じる。これも体が発する苦手のサインのひとつです。

3 体が臭い
人間は誰でも体臭を持っているもので、食生活によっても体臭は変わりますが、一日仕事をしたあとにいつもと体臭が違うなと感じるときは、たいていその日になにか大きなストレスを感じていた時間があったのが原因でした。(何を隠そう僕は嗅覚がけっこう良いほうで他人の匂いはもちろん自分の体臭もかなり敏感に感じるほうなのですが、嗅覚の話は横においておきます。)風呂に入るときに、なにか体が臭いなと感じたとしたら、それは気持ち良い汗をかいたからではなく、ほんとうは苦手な人と会っていたからなのかもしれません。

 

頭ではこの人の事好きだな、この人といると勉強になるな、などと思っていても、もしかしたらそれは頭でぐっと思い込んでいるだけのことで、本当は心の奥底ではいやいやをしているということは、よくあります。そのとき、体はつねに小さな声でサインを発しているものです。体は、頭で気付くよりとっくの前から本当のことに気づいていたんだな、と思い、これまで苦しめてきてすまなかったな俺、と、思います。

静かな、なにもない時間を1分でもいいので作って自分の体にそっと問いかけてみるだけで、体は、とても小さな、でも確かな声で、その答えを教えてくれるはずです。